『野田版 桜の森の満開の下』

8月14日夜、歌舞伎座にて第三部『野田版 桜の森の満開の下』(坂口安吾作品集より)

作/演出:野田秀樹

出演:中村勘九郎 市川染五郎 中村七之助 中村梅枝 坂東巳之助 中村児太郎

   坂東新悟 中村虎之助 市川弘太郎 中村芝のぶ 中村梅花 中村吉之丞

   市川猿弥 片岡亀蔵 坂東彌十郎 中村扇雀 ほか

・・・・・・ううっ この芝居、印象的なセリフがいっぱいあるので、どれを取っても二番煎じ感が拭えない・・・・。

「オニっぎり・・・オニっいさん」(ヘンナコ)

は好きだったのだけど、今回はオニオニオニオニ言うだけ(←こっちが戯曲通りなので、アレは川俣しのぶさんのアドリブが定着したものだったのか)。

さて、『贋作(「にせさく」と読む)桜の森の満開の下』改め『野田版 桜の森の満開の下』。

この改変はなんだったのかな? 歌舞伎座的には「贋作」はダメだったのか。

初演は昭和天皇崩御の年だから、28年前。

「クニツクリ」の話を書いたら、天皇崩御〜という野田さんらしい芝居で、しかも公演場所が日本青年館だったために、大喪の礼の日には公演中止というエピソード付き。今回もまた、天皇生前退位が取りざたされる今、の上演って、なんだかcoincidence過ぎて怖い。

観た人の評判がすごくて、まあ大半は、野田さんと勘三郎さんでの実現を待ち望んでいた人たちで、なんて言うか、中村屋兄弟での実現に、もう垂れ幕見ただけで涙!みたいな人たちなんだけれども、とにかく「凄い、すごい」の嵐だったので、こちらの期待値も自然と上がる。

観た感想としては「うん、『桜の森〜』は、こんな感じよね!」ってところかな。

ほとんど、もとの戯曲をいじってなくて、歌舞伎にするにあたって、セリフ(ト書きも)7語と5語にした〜って言うのが、前宣伝だったけれど、さほど目立たず。まあ、日本語の気持ちの良い流れって、基本七五調だからね。

「まいった、まいった」に「なあ」をつけたのも、語音を7にするため?

私は「なあ」は要らない派だな。

ちょっとしたギャグがなくなっていたり、冷蔵庫に入っているのがメロンじゃなくてヤクルトだったり〜くらいの違いしかわからなかった。登場人物のキャラが役者さんに合わせて、少しづつ変化してたりするくらい。

「○▽▲*☆バンガロー! 山小屋のこと?」

まで、そのまま残してあった。

物語の解説しても仕方がないので、役者さんのことなど。

評判のすごい七之助ちゃん。

夜長姫という役は、毬谷友子さん、深津絵里さんと歴代「声」が魔物な女優さんが演じて来た。もともと、あのキャラは毬谷友子さんあってのキャラだったんじゃないかと思う。あの赤い口がパックリ横に割れて、キャハキャハ笑う夜長姫は、本当に怖かったし愛すべき人だった。

七之助ちゃんの姫も、声のトーンを高くして舌足らずにしゃべる、毬谷さん寄りの作りになっている。鬼のところで男の声になるのだけど、いや、毬谷さんも深っちゃんもやってたから、個人的には、ひーすごいって感じではなかった。女優の場合は、男じゃなくて老婆になるのかな・・・声が。

そして勘九郎さんの耳男。

初代の野田さんの耳男は、子供っぽくて少年って言うか、まだまだガキの耳男が「女」の夜長姫に翻弄されていて、二代目の堤真一君のは、もう少し大人で、深っちゃんとのバランス上、大人の恋愛っぽい匂いが漂っていた。勘九郎さんの耳男は2人の中間くらい?

七之助ちゃんの夜長姫が強いので、ちょっと「受け」が勝ってる感じになっているが、初代/2代目の良いとこ取り。喉の調子が悪いのか、声が通らないところが時々あって、気になったけど、ラストの「まいった、まいったなあ」のため息ともつぶやきともつかない詠嘆は、さすがだった。あれで持って行かれるもの。「なあ」は要らない派でもw。

染五郎さんのオオアマ。

これって染五郎さん得したよね? もう完成度がすごい。

この、小狡くて、顔は良いのに小悪党な感じ、素敵! 早寝姫との「きゃっきゃうふふ」のシーンも良かったし、何より「壁ドン」が素晴らしい。支える壁を持つマナコの猿弥さんもうまいけど。二部になってからの、豹変ぶりも大好き。上の世代がごっそり居なくなって、若手と旧世代をげる人は染さんだけになっているので、お体に気をつけて、頑張っていただきたい。

そのマナコの猿弥さん。

この役、わりと2枚目のチャライ男系列だったのだけど、今回、わりと丈夫な感じになっている。初代と2代目(上杉祥三/羽場裕一)は、対するのが野田さんだったので、2枚目っぽく、三代目は、耳男が堤慎一君だったので、バランス的に古田新太さん〜ってことになっていて、今回はむしろこっち? 古田さん的俗物?

マナコは、耳男と自転車の話をするところが好きだな。

えーと、えーと、そのほか鬼の皆さんも楽しかったし、いろいろ「この人!」って言う人がいっぱいなんだけど、まずはエナコ/ヘンナコの芝のぶちゃん。この人、野田歌舞伎になると、いつも弾けてるなぁ。性が合うんでしょうね。

ハンニャ/ハンニャロの巳之助さんも可愛くて良かった。こんなに大きく(体のことじゃない)なられたんだね。早寝姫の梅枝ちゃんも、いつのまにか大人になって〜。

舞台いっぱいの桜の森に、きっと勘三郎さんの魂もいらっしゃるのだろう。もしかしたら、なぜ、俺の役がない!と地団駄踏んで怒ってらっしゃるかも〜という、戯曲外の感慨もあって、美しい舞台の幕が降りた。

この日は、諸般の事情から(笑)、桟敷席だったので、デパ地下でお弁当を買って行って、お大尽気分で桟敷だいただく。桟敷席にはお茶セットもあるし。デパ地下弁当を選んでる時点でお大尽じゃないけども。ここは本来ならば、予約制の1階桟敷席のみの「お届け弁当、3800円也」にしないとね。昔は「おか持ちセット」で水割りのセットがあったように思うけれど、今はないのかな? 開演前に「めでたい焼き」を一匹(いちまい?)買って、チビチビ食べちゃった。でも休憩時間が短くて、席から動かなくてもギリギリだったので、あれで食堂に移動して食べてたら、大変だと思う。むしろ開演前に食べるのかしら?

帰りは、雨も降っていたので、濡れずに(外をなるべく歩かず)どうやって帰るか、オットと協議の結果、すぐ下の日比谷線仲御徒町に出て、地下移動で大江戸線に乗り継ぐ〜という方法に決定。これ、なかなか楽で良かった。