風邪をひいてしまった

風邪をうつされてしまったらしい。 誰からかはわかっている。 家人がこの3週間ほど風邪気味だ。 彼女がだれからそれをうつされたかもわかっている。 近所のオバサンである。 うちの息子の小さい時からの遊び友達の母親でその昔泣き虫だったこども、マタインにも今はちゃんとしたパートナーが出来てこどもが生まれたばかりだった。 そのオバサンはうれしくて、こんな風邪をひいた自分は赤ん坊を抱けないね、と生まれたばかりの孫の写真をスマホで家人に見せていた。 そのときにうつされたのだと主張する。 それ以来家人の風邪は今だグズグズしていて治らない。 そんな妻と一緒に生活している自分にかからないのが不思議だと言い合っていた。 

5月30日の大手術以来自分の体には抗生物質やら何種類もの薬剤が打ち込まれていていまだに風邪に対する防御態勢がのこっているのだろうと家人は言っていた。 それがここにきてこの風邪だ。 土曜の午後毎年この町である芸術家たちの展覧会があってそれまで何年も家人が展示場にしていたフェリックスの美容院が店を閉めたので新しい会場に移ることになっていたので興味本位にそれを観にそこに娘と出かけたのだった。 町の土曜のマーケットで白身魚を揚げてもらいそれを歩きながら喰いそこから遠くない会場までポカポカとした陽の下を散歩がてら出かけた。 そしてその陽気に汗をかいた。 

夕方から寒気がしてガタガタと震えだし寝込んだ。 その夜は明け方までよく眠れなかった。 手術後癌研に3週間弱入院していた頃の初めの日々の夜を思い出した。 2,3時間づつの浅い眠りしか取れず息が苦しかった。 起きた時喉が痛くて堪らず暖かいミルクを飲んでなんとか痛みをやり過ごした。  日曜はそのオバサン、ティネカの目出度く年金生活に入るパーティーが昼からあってそこにでかける筈だったのがこんな調子で行けるはずもなく家人が電話でキャンセルした。 鼻汁が止まらずティッシュの箱を空にした。 もうこの歳になって風邪のパターンは大体分かっているので寝床で暖かく寝ているほかはない。 不思議なことに寝床に入ってベッドの頭のほうを起こし傾斜させて寝ていると鼻がすっきりと抜けた。 そのまま音量を低くしたクラシックFMをバックに読みかけの長編を2日で読み終わるほどなのだから頭は或る程度すっきりしていたのだろうけれど体は関節が痛みトイレに立つにしても普通のようには動けなかった。 症状がほぼ4時間ごとに変化していくのが分かった。 

普通は引きはじめから完治するまで1週間から10日かかるのがパターンだった。 二日寝込むとして起きてから流れていた鼻汁が徐々に粘りだし鼻が詰まり、喉が痛く痰が徐々に気管支の奥の方に沈み絡み咳が重くなる。 そしてその痰が切れると完治という具合だった。 けれど今回はそのプロセスが物凄く早い。 もう鼻水がとまりすっきりし始めて咳が始まっている。 寝床にばかりいるとあちこちが痛むので起きているのだがそれでも寝床が恋しくなりベッドに沈み込むと安心した気分になるのは健康ではない証拠だろう。 

月曜には朝の11時からジムでケースとの約束があるがこんな調子では行けないので電話でキャンセルした。 寝床で本を読んではうつらうつらとして過ごした。 眼を瞑ればいくらでも眠れるような気がする。 咳をすると辛いのでできるだけ咳をしないようにイガイガをやり過ごそうとするのだがそうもいかず苦しい思いをした。 年寄りの多くは結局は肺炎で亡くなることが多いと聞いているけれど自分の場合もそうなる可能性が高いと思った。 これから20年経ってこの咳では堪らない。 その前にこれから20年ということにも大きな疑問符がつく。 果たしてそれまで生き延びることができるのだろうか。 風邪は万病のもと、というのも頷ける。